2009年05月30日

P子が女子サッカー部に籍を置いていたのは小5のときーー。
三月、最後の試合を前に、靴が小さくて足が痛かった。

けれど最後だからコレで我慢しよう、ここでトレシュを買ってもらってももう履くチャンスはないのだから、という思いと、いや、最後だからこそベストを尽くしたい、この靴では走れないという思いが交錯していたという。
弟がサッカーをやっているのだからお下がりにすればよいという発想になりそうなものだが、弟はオシャレ番長、自分の気に入ったシューズ以外履かない。そして、それはたいてい最新モデルで、だから母は優勝したとか優秀選手賞だとか、そんなときにしか弟のトレシュを買おうとはしない。
しかも、自分の足に合うトレシュはディアドラかアンブロで、弟の愛するナイキを試すたびに、シンデレラの意地悪姉さんになったような気分になるのだ……。

P子は、よく言えば大変な倹約家、悪く言えばけちくさい、しっかり者の長女なのである。

迷った末に、もうすぐ試合という段になって、P子はおずおずと足の痛みを申し出て、母にこっぴどく叱られるのだ。
「子どもは痛い思いを大人に隠してはいけないし、くだらない遠慮をしてもいけない!!」

トレシュは雨はじきがよい上、足底は滑り止め機能つきなのでから、レインシューズ代わりに履けばよい。あるいは、運動靴として履いたっていいのだ。
小さくなったトレシュは、サッカーをやっているお友達にまわせる。
日々ストリートサッカーをしている小僧の場合は、底が擦れてすぐにぼろぼろにしてしまうから、お気に入りではなかったナンバー2以下の控えトレシュ以外はとてもじゃないがあげられないけれど、P子のトレシュはお気に入りでもたいていきれいなままだから、差し上げやすいというのもある。
まったく、最後の試合という部分に捉われるから、アイディアも出ないのだ。工夫次第で、いくらでも汎用性があがるではないか。いや、ポイントは、そこではないのだけれども。

一緒にサッカー屋さんに行き、P子が選んだのは一番安い、無骨な、型落ちのディアドラだった。多分、2000円ぐらいだったと思う。
「いい靴は、いいパフォーマンスをサポートするよ。買えないときには買えないと断るのだから、遠慮しなくていい」
けれど、コレが妥当だと思うと、P子はそのシューズを譲らなかった。
それを履いて彼女は最後の試合を戦い、潔く負けて、自分なりにサッカーを諦めた。
どんなに勧めても、P子はそのトレシュを学校に履いていこうとはしなかったから、まあそれなりに思うところもあったのかもしれない。
一年間、お疲れ様という意味をこめて、母は彼女の名前を刻印した金メダルを特注した。初めての金メダル、そのコストは、トレシュより高かった。

でね。
そのディアドラのトレシュはまだ全然きれいなので、もちろん小僧が大きくなったときにお下がりにしようと大事にとっておいた。
小学三年生だから、まだ先かもしれないが…と、今日、それを出してみたら、22.5センチ。すでに今はいているトレシュのサイズじゃん!

今日は雨。
小僧の運動会は延期になった。
運動会の徒競走、オオトリの一番、ライバルは24センチの子だという。一度だけ練習で負けたことがあるから油断はできないのたと、練習に余念がなかった。
明日はどの靴を履いて、徒競走とリレー戦に挑むのだろう。
一方、土曜日も学校のP子は、今日、防水機能付きのトレッキングシューズを履いていった。学校で遂行する本格登山を前に、先日一緒に買いに行き、何足も試し履きして、堂々と一番高いものをねだったのだった。25.5センチの、かわいいデザインだった。

2009年05月30日 08:52