オラ!エスパーニャ(行くだ)4|センターバックはチームの背骨


9月の終わり。エージェントの会社との交渉にやってきた。
蓮はまだ未成年なので、父親としていろいろと細かい部分をつめていかないといけない。
半年で200万円近いフィーでは4年間支払うのは厳しい。本人が自炊してアパートで暮せば少しは安くなるんですか。というご相談などを含め。

相手のエージェント会社代表(30代中盤)は、思ったより渋めの表情で、「予想外のことがとても多いです。予想通りにはまったく行きません。うまく行くと考えていては失敗するので、甘い見通しを持つのは禁物です」
と繰り返す。
こちらも、自分はフリーランスで長くやってる漫画家なので、フリーの厳しさはわかっているつもりです。海を渡ってしまえば、誰の責任でもなく全部自分の問題なので、まあ二度と日本に戻らないくらいの覚悟で行けと言ってあります。
眉毛に力を入れながら硬い表情を作って返す。

ところが、話すうちに空気が違うことに気づいた。
「こちらとしても、バルデスが監督になるなんて、まったく予想外なんですよ」とエージェント。
「毎年何億も年俸もらって10何年もやってた超一流のプレイヤーが、こんな小さなチームの、しかもユースの監督になるなんてありえないですから。私達も驚いてまして」

「ポジションについてですが、私達も他の監督なら『前で使ってよ』って言うんですけど、バルデスが「センターバックで使いたい」と言っているんで、そこはなかなか言いにくい。
でもセンターバックとセンターフォワードというのはチームにとって非常に重要な、いわゆる背骨です。サイドや中盤とは違うものです。
ぼくらがエージェントとして送っている日本人プレイヤーはほとんどが中盤とサイドばかり。
センターバックは日本人ではほとんどいません。吉田麻也とあと一人しかいない」
だんだん話に熱がこもってくる。

「EUでは海外選手は3枠しかありません。この貴重な3枠の奪い合いになりますから、センターバックというのはとても有利です。とてもむずかしいポジションなんで前をやってたプレイヤーがいきなりやれないんですが、蓮くんはサッカーインテリジェントが高いという評価をされてますね。
ホント異例ですが口約束ではなく、書類でのオファーがモラタラスから来ました。
23人しかない選手の枠に入ったということです」


「蓮くんは180センチを超えてるのが大きい。ただ横が足りない。もっと肉を食べて体重を増やさないと当たり負けします。
ものすごいですよ。向こうの黒人プレイヤーなんてものすごくでっかくてメチャクチャ食います。あとは言葉です!」
いつの間にか溢れるような笑顔で話をしている。
「日本でも大きなセンターバックはいつも足りていません。4年なんていう時間の余裕はなくて、この半年集中してください。ここが勝負です。ある程度実績ができれば...、
EUのプロリーグに入れれば、その後Jリーグでもオファーが来るかもしれないし、うまくすれば...」

ああ、ひょっとすると彼は、予想外にうまくいってしまって、しかも化ける可能性が高いと思っているので、それを顔に出さないように渋い表情をあえて作っていたのかもしれない。
よし、方向は見えた。
とりあえずバルデス監督の下でセンターバックの修行を積んで、ユースの年齢ではなくなる半年後、リーグの終了する6月以降、どこかのプロチームに入り込むのが目標。
彼のルートで紹介してもらえるのがとても大きい。たまたま行ったユースチームにバルデスがいてくれたことが、二度とない僥倖だったのだ。
誰? とか言っててすいません(笑)

SNSでの本人の書き込みは注意深く。
オレが書くことは問題なし。(そんなことを言ってきた保護者は初めてらしい)
ビザを取ることがもっとも難しく3ヶ月はかかるので、最短でも12月中の移動はなし。
高校選手権が終わったらすぐに日本での選手登録を抹消してもらう。
1月の頭にスペインに行くというスケジュールがたてられた。

健康には気をつけて。