2008年07月26日

昭和の店

朝起きると、炊飯器の中にはこぶし大の飯しかなかった。
子ども達はこれからプール。
大急ぎでそいつを中華粥にする。一人分がお水の力であら不思議、ちゃんと二人分の粥になった。
夏休みの母親には不思議がいっぱい、常に自由研究のネタと背中合わせである。
んでもって、小僧が
「ちゃんとしたごはんが食べたいよ」
と言う。そういえば、昨日だか一昨日は、ごはんが炊けてなくて、朝からソーメンゆでたんだったな。
そして、我が家は私以外、ソーメンが嫌いで、娘など、一口食べて「なんだか今日は朝から満腹〜」などと抜かしながらプールに出かけていったのだった。
今朝、二人はあっという間に粥をすすり終え、全くもってものたりませんという顔をしていた。
こういうときはバナナを勧め、マンゴーをむいてごまかす。
「ほーら、これはまるで、香港の朝食。グッドモォォォォォォニング、ほんこーん。ああ、はおちーはおちー」
……とりあえずごまかしながら、しかしこんな力技が、いつまでも続くはずはないと思う。
私が子どもの頃、昭和40年代野夏、母ヨシコは何を食べさせていたのかなあ。

ところで今日は旧友と荻窪で会ってきた。
町を歩いていると、見るからに「昭和」を具現化した喫茶店があり、その食品サンプルの古さがすでにあまりにも味わい深く、コーヒー一杯500円という書き文字にもシビれて、そこに入ろうと決めた。ジャガード柄のゴージャスなソファー、っぽい椅子と小さなテーブル。昭和だ、昭和がここにある。懐かしいよーん。
そこはあ・うんの呼吸というべき、旧知の友、すかさずナポリタンセット、アイスティーで。なんて頼むから心憎い。ここはナポリタンだよな。それ以上のチョイスはない時点で私の負けなのだが(勝負だったのか?)ベーコンクリームスパゲッティーというのを見つけ、これはカルボナーラだな、カルボナーラと書いていないところが昭和だなと、食後にコーヒーで、それを頼む。
サラダはキャベツの千切り、ドレッシングはサウザンアイランド。すばらしい定番!
運ばれてきたナポリタンは、この上なくナポリタンであった。
わくわくしつつ待っていると、私のところには明太子スパが恭しく……。待て待て待てぃ。そんなハイカラなバブル時代の食べ物が食べたいんじゃない、私はカルボナーラのクセにピーマンが写真にしっかり写りこんでいたところの、元祖クリームスパが食べたいのだ。
「あの、オーダーしてないですよ、これ」
「え?」
「私が頼んだのは、クリームスパゲティでした。そういってたよね、私?」
と、友達に確認する。脳梗塞がある身としては、強く主張もできないかと思ったが、友達も確かにそういった、間違いない。と、口の周りをケチャップだらけにしてうなづく。
「ええーっと」
しばらく間があったが、私は明太スパが嫌いだ。
「取り替えてください」
と言うと、はいすみませんといってウェイトレスは下がった。
ほどなくクリームスパが運ばれてきて、これまたなんとも懐かしい給食の味を堪能していたのだが、今度は食後。
友達のアイスティーが、見事にアイスコーヒーになっている。アイスティーにしても黒すぎるのよ。
「ええーっと、私はアイスティーを頼んだんだけどな」
「え?」
「そういってたよね?」
友達が私に確認する。天地神明に誓って。っていうか、彼女はコーヒーをめったに飲まない人なので、間違えようも迷いようもないのである。
しかしまー、なんだってそんなに注文を間違えるのか、不思議。またしても自由研究のネタが……。
またまたチェンジしてもらって、雰囲気も価格もお味もとっても「昭和」な気分を満喫したのだが、もしこれが本当の昭和時代だったら、私たちは絶対に「取り替えてください」とは言わず、違うけど、作っちゃったんだよね、もったいないから、いいよいいよおなかに入っちゃえば同じだから、しょうがないよね、などとといって、自己主張するでもなく、そのままいただいたんだろうなとも思った。それが昭和の常識だった気がする。……遠い昔の話だ。

時代が変われば、文化も生き方も変わる。
あと30年後、「平成」を象徴するスターバックスか何かに「懐かしいね」などといいながら入って、旧友と私は何を話しているんだろうかなあ。そのとき私たちの意識は、平成かしら、新時代かしら。それとも、いっそ昭和なのかしらね。

2008年07月26日 00:56