「おかあさん、ほっぺた貸して。
手でむぎゅーって、こうして(鼻の方に寄せますと)、口がぴゅーん(と、ひょっとこのように突き出ます)、ははは、変な顔ぉぉぉ。
おかあさん、変な顔だけど、だーい好き」
そして、頬に当てた手はそのまま、おもむろに壊れたアンパンマンのようなひょっとこ唇に自分の唇を押しつけてチューをする福助。
「こらこら、こんなところで、やめなさい!!」
おかあさん、ちょっとドキドキした。
「どんなときも、福ちゃんが守ってあげるからね」
と、しゃかりきになって私がこぐ、自転車の後ろかごに乗っかって、人の脇腹をもみながらそういうことを言うかと思うと笑えてきて、ははははと笑う。その声を聞いて福助も楽しくなっちゃったらしく、一緒に笑い出し、より一層、腹もみの手に力が入った。痛てて、痛いよ、福ちゃん、痛い、痛い。
「あ、ごめんね。福ちゃん、守りきれなかった」
わははは。何を守るつもりなんだろうね、この子は。
おかあさん、それでも、ちゃんと守られている気がするよ。
診察の結果、福助はシンスプリント(脛骨過労性骨膜炎)だった。
自閉症ならしょうがないね、とお医者さんは大変理解がある方だった。
「マラソンはダメだよ。でも、ボールを 蹴るのはいい。湿布を貼っている間は、走るのはダメ、リフティングを練習ね。約束出来るね?」
と、とにかく簡単な単語を並べて福助にいい、頷くまで何度か繰り返して、じっと待ってくれた。
これは×、でもこれは○、簡単な単語で繰り返し。
たったそれだけのことだが、たったそれだけが、聴覚で理解しにくい自閉症の子どもには有り難い。
「あの……ボール蹴ってもいいんですか? ヒザとか固定して動かないようにした方がいいのかと思っていたんですが」と不安な私に「全部やるなというのは、酷でしょう? 脚こわすほどサッカーに夢中なんだから」とにっこり笑って下さったので、うわー先生わかってる!! ありがとう!! と思う。
私もついでにいつもの痛み止めの注射を打ってもらう。背中がごちごちに堅くなっていたので、背中にも注射して、一気に不快感が和らぎ、壁打ちにでも行くか。という気分になる。筋肉の張りを懸念した先生、筋弛緩剤も調剤してくれて、もうなんだって飲もうきっと効く! とやみくもに信頼状態。
病院に行くのは大嫌いだが、こういうささやかな喜びに出逢うと何だかうれしくなっちゃうよ。こういうことも、福助がいなければわからなかったこと。普通に生きていけないのは確かにちょっとやっかいだけど、普通じゃないから見える世界に、おかあさん、時々、うっとりするよ。
で、この筋弛緩剤が、なんかとてつもなくいいこんころもちにしてくれる薬物だったようで、いきなり動けなくなり、がごーっと昼寝。
夜も久しぶりに酒を飲まずに、この薬だけでがごーっと就寝。寝る前の英語漬け、まれに見る好成績で、ああ私の脳みそはやっぱり筋肉だったんだ、やわらかくなってちょうどいいんだと思う。
ただ、今朝起きて全身揉み返し状態で、つまりあちこち筋肉痛で、ものすごーく歩きにくい。シンスプリントの福助の方が、さくさく歩いていて、私はあやしいクラゲ人間と化している。いやクラゲは筋肉痛はないんだろうが。
せめて私は、普通に生きていきたい。
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