2010年12月19日

広汎性発達障害の面白さ

6年生に、とんでもなくかっこいい女子カオル(仮名)がいる。
あの子はスポーツ特待で将来を約束されるだろうなあ、と誰もが思う俊足の美少女だ。
男子より、早い。
学校一、早い。
もちろん、彼女の大好きな種目でたくさん勝利を修めていて、全国大会にでたらみんなで応援に行こう!と仲良しママ友で楽しみにしている。ぜひとも、横断幕は私が作りたい。

横断歩道を駆け足で渡る人を見送りながら、
「あれが普通だよなー」
と小僧がいう。小僧の提言はいつも突然だ。
女子の走り方は男子に比べて、背中のひねりが多いというのだ。極端に言うと、競歩みたいな揺れということだと、身振りで必死に説明する。
しかし、カオルの走り方は背中が揺れない。腰を軸に横揺れすることがないので、ぜっけんがまっすぐ背中に張り付いたまま走り続けられる。リレーの時に見ていて、なぜゼッケンの揺れかたがこんなに違うのかと思っていたらしい。
極端な例が目の前を走って、それで気づいた。
おそらく、足が早いというのは上半身に無駄な動きがないことが必須なのだ、と、私がまとめれば一息でいえる一文を、信号が変わって横断歩道を渡って次の横断歩道で止まるまで、ものすごーくつたない日本語で必死に訴えていた。
……そんなこと、考えたこともなかったけど、実にいい考察だと思う。

小僧は、脳みその使い方がちょっと違う。
それが幼稚園の時には大きなハンディーに思えた。
ハンディーなら克服できないかと、専門機関の扉を叩いて、「広汎性発達障害」という冠を頂いたけど、ほとんど役に立たないわ、個人を見ずにレッテルだけが先行するわで、ずいぶん悲しい思いをした。
今、私は「検査したほうがいいかしら」と問われると、覚悟があるなら、検査の前に母親が勉強することを勧める。それで自力で頑張れないかもと思った時に、相談すればいいと思う、と言う。
相談したい時に必ずすぐに相談できる場所を探しておけば、多分それで大丈夫だと思う。
インターネットもあるし、本も充実してきた。法制化もあった。この10年に、広汎性発達障害業界は、大きく前進しているから、ひょっとすると専門機関も今や捨てたもんじゃないかもしれないけれど。
告知されたところで、憂うべきことじゃない。
ものの見方がものすごく面白い、チャーミングな子どもを持てたんだなと愉しめばいいんだよ、と、悩んでいる人に伝えたいなあ。

伝えたくて大学に行き始めたのに、ああ、頑張らなくちゃ!

その日、小僧のサッカーはひときわいい走りっぷりだった。
多分自分の解説で、頭の中が整理されたのだろう。
中学生に混ざって、何度もいい場所に走りこみ、フリーでここにくれ、あっちに出せと合図していた。
毎回聞いている今日の課題とよかったところで、
「よかったことはね、自分から大きな声で自己紹介できて、6年にも自分から話しかけられたこと。全員の名前を覚えたよ」
コミュニケーションに難がある……典型的な例が心配されていても、物事に例外はあるのだ。
そして、例外じゃないときには、チームプレイではない種目や科目をえらべばいいだけのことなのだ。
普通の事ができないなら、普通じゃない事ができるかも。
そういう人がいなかったら、世の中面白くないんだからさ。

超親ばかな私には、小僧の動きが日本代表のように見えても、客観的に見れば小僧のサッカーが趣味の域をでないことにはそろそろ気づいている。
それでもサッカーを続けられる道は必ずあると思うんだ。
小僧のサッカーの目標は「じじいになってもサッカーを続ける」事。かっちょいいサッカーじじいになることだから、先は長い。
小僧のおかげで、私も発見だらけだ。ヘトヘトだけど、楽しくってやめられない。


2010年12月19日 12:05