2007年03月17日

走れメロス

ゆう子は走っていた。
ひたすら旧甲州街道を走っていた。
色無地にきりりと袋帯をしめて、ゆう子は自宅への道をひた走っていたのだ。

卒業式は号泣した。
卒業証書を授与されてゴー。初手の子から泣き続けたので、結局32人全員分泣いた。この子は福助をこんな風にいたわってくれたなあ、この子は私にいつも話しかけてくれたなあ、この子は……と全員と過ごした思い出で胸が熱くなり、止まらなかった。
そのあと、PTA会長の祝辞にゴー。
子どもが一生懸命の送辞と答辞にゴー。
離任される先生を見てゴー。
卒業生が退席する演奏にゴー。
やっと涙をぬぐっておちついて園庭に出てきたら、去年一緒に役員をやった後輩ママさんたちに花束とカードを頂いてゴー。彼女たちとももう会えなくなるんだと思うと、ゴー。
いかん、もうあえなくなるんだモードはいかん。
なるべく、同じ組のママ友とは話をしないようにする。
下級生のママさんたちが花道を作って送って下さるのだが、ここにまたうるる。そして子どもたちの歌声を聞いて、ゴー。先生のご挨拶と涙にゴー。

帰り際、園長先生のお顔を見たらゴー、担任の先生のお顔を見たらゴー、年少さんのときの担任の先生のお顔を見たらゴー。
P子が「ここが世界で一番好きな場所」といって卒業したのが今から四年前。今では、私にとっても「世界で一番好きな場所」になっていた。
門を出てうずくまって号泣しながら、この三年間の濃密な時間は、福助の障害が私に与えてくれた大きな喜びなんだと思った。
最初はかけるご迷惑をお返ししたいという発想だった。同一歩調の取れる子を前提にした入園条件は熟知していたし、かなり無理なお願いと承知の上だったから、障害児が入ったことでご迷惑をかけるなら、その分はその母親が出来ることを引き受けさせていただいてバーターに。と思ったのだ。
けれど、そのうち、私のやったことを誰かが喜んでくれるのがうれしくなってきて、先生方のために、ママ友のために、どんどん出来ることはやろう、全部やろうという気持ちになっていった。
バーターどころか、自分で課題を作って、それをクリアしていく喜びに打ち震えるようになっていったのだ。私の仕事はおかんである。幼稚園ママである。と思ったとき、次から次へやりたいことがわいてきて、その自己実現のうれしさたるや、まったくもってすばらしいものだった。
うまく出来ることが少ない福助に目盛りをあわせると、ほかの子の優れたところがものすごくたくさん見えてくる。どの子もいい子で、私はクラスの子全部が大好きになっていった。
私の愛のキャパを飛躍的に増やしてくれたのは福助だ。こういう濃密トレーニングはそうできるものじゃない。子どもを持つことに不安を抱えていた私には、最初の出産で双子の死と出会いやっと子育てスイッチが入って、次に育てやすく理想的な子どもP子によってその痛みから救われ、仕上げに、障害を負っていた福助が私のもてる愛を深めてくれた。
私が子どもを育てているのではなく、私の人生にとって、子どもが必要不可欠だったのだと思う。あまりに上出来な筋立てだ。そんなことをこの卒業で思う。

人に荷物を預けて、紅白饅頭だけを大事そうに抱えてシャドウドリブルしながら家路に急ぐ福助だったが、その後姿も何もかもがいとおしいなあと思う。

で、お祝いだからと福助リクエストの寿司を食べに行きビールを飲み、お会計の段になって、はて。
財布を忘れて愉快なサザエさん♪ って、サザエさんは愉快でいいが、私は青ざめた。さすがちとから商店街、お店の人はあとでいいよといってくれたが、そうはいかない。相方も今日に限って残高が小学生並み。頼みの綱の小学生P子がもっていたキャッシュカードを強奪したが、暗証番号を忘れたうっかりP子、誕生日でためしてアウト。まったく役に立たないぜと言ったものの、役に立たないのはお前だろうと突っ込むもう一人の私がいた。

そして私は走ったのだ。自宅まで財布を取りに。
いいこんころもちだったのはさっと消え去り、私は自宅まで走る。
門出に土をつけちゃいけない。
別にこのまま私が戻らなくても人質三人が三枚におろされることもないが、私の帰りと現金を待っているのだ。私はぞうりで走り続けた。

走りながら、なんだか愉快な気持ちになっていった。
正装で走る、たったひとりだけそんなふうに一生懸命になっている自分が滑稽で、私は笑いながら走った。泣いて笑って青ざめて走って、理想とかけ離れた卒業式。トラブルといえばトラブルだが、トラブルは命さえとられなきゃたいてい面白いんだ。
うまくいかないからこそ、工夫してクリアして、必死になって動いて。
きっとまたこの先も、同じように走り続けるのだ、おかんとして。

2007年03月17日 16:48
コメント

福ちゃん、卒園おめでとう
そして、春から小学校入学おめでとう
遠い鹿児島から、これからたくさん体験する
嬉しいを応援してます
U子さん、また1つ楽しみが増えましたね
きっと、大変なことも多いでしょうが
越えられない壁を、モリモリ越えていってください

Posted by: D面 : 2007年03月18日 14:56

こちらは鹿児島の反対、雪の北海道からおめでとう!
福助君おめでとう!ゆうこさん、ホントにすばらしい幼稚園生活だったのですね。おめでとうございます。
これからの福助君の成長がますます楽しみです。
うちは4月から幼稚園。福助君のようにいい仲間に出会えることを願っています。
筋肉痛にはなりませんでしたか?春休み、しばし休憩ですね(笑)

Posted by: めぐみん : 2007年03月18日 22:41

あ。デジャヴ。
おいらの卒園式の日、父に「喫茶店でジュースが飲みたい」と言って連れて行ってもらったんだけど、飲みだすと、父が「財布を取ってくるから待ってるんだよ」と言い置いて帰宅したっけ。
そーかー、例年恒例で、いずこかで繰り返されてるんだなぁ(微笑)
走れ、おかん!! 夕陽が赤いぜ!!

Posted by: トロ〜ロ : 2007年03月19日 01:49

西原先生の毎日かあさんでも、幼稚園の卒業について描いていますね。私どもの娘は後2年あります。(今度「年中」)確かに、今、すごくかわいい。女房は大変そうだが、たのしそう。大事な、一人娘なので・・。
でも、ゆう子さんの幼稚園生活とは全然違って、役員をしていた嫁は、人間関係で悩んでいたけど、まあ、それも経験だし、役員していなければ、いろいろ考える事も無かったんだから、まあ、それもいいかって、思っています。後2年、こちらも、楽しまないと、2年はすぐ過ぎてしまう。

Posted by: たま : 2007年03月19日 12:25
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