ヒロシ(仮名)は5歳。
一緒にシンガポールに出かけたこともある、福助の大事な友達だ。
主張が激しく、目端の利く子なのだが策略を好まず、そのストレートさゆえに、どちらかといえば「きかんぼう」キャラである。「強く逞しく、男の子らしくていいんじゃない、そのうちリーダーシップを発揮しそうなタイプだわ」というのが、うちのクラスの母達のヒロシ評だ。
そのヒロシが、今日、中耳炎で病院に行った。そのとき偶然待合室で会ったのが、三角公園のマドンナ・あやか姫(仮名)だったというお話を伝え書きする。
このあやか姫、近所の公園で、周りにいる子をしばし見とれさせるような美貌の持ち主。将来が楽しみなような、ある意味怖いような、そんな彼女の風評は、幼稚園が違っていても当然流れてくる。長いまつげに縁取られた大きな瞳、漆黒の長い髪を三つ編みにして、ヒラヒラのピンクがよく似合う。
「ああいう子、うちの組にはいないからなあ……」
と、福助もまた、公園で魂を持って行かれたまま私に語ったことがあった。偶然頂いたチュコレートを手の中でぐちょぐちょに握りつぶすほど見とれていたものだ。確かに男女の別なく毎日<きなこもち>のようになって帰ってくる、野猿の里みたいなうちの園には、あきらかに生息していない雰囲気である。そんな彼女が、そこに、耳鼻科の待合室のイスに、座っていたのだ。
「こんにちわ」
「あらー、あやかちゃんとあやかちゃんのママ〜、久しぶり!! 」
ヒロシの母は社交的だ。それに比べて、いつもは元気なはずのヒロシ、中耳炎でここのところ定番と化した不機嫌そうな顔である。
「あら、ヒロシ君どうしたの? お耳、痛くなっちゃったの?」
と、あやか姫の母に聞かれても、黙っている。
母親同士はいつもの公園感覚で世間話をする。まあ、幼児を持つ母親にとっては、ボノボのマウンティングよりも、チンバンジーの毛繕いよりも、当然のことである。←例えがわかりにくいよ!
ここで問題が生じるのが、ヒロシである。
今さら自己紹介するほどには遠くなく、かといって昨日の先生の失敗談を共に笑い合うほど親しくもなく、ワールドカップを語るには性別が邪魔をし、カブトムシの捕まえ方をレクチャーするには相手が女の子すぎるのである。ポケットに手を突っ込んでみたところで、あやか姫の喜びそうなモノが入っているはずもなく。
もちろん、あやか姫は動じない。治療が済んだ余裕もあったのだろう、「ひろしくん、こんにちわ」といつものように微笑んで、持ってきた絵本にもう一度視線を落としていた。
「はやく……」
ヒロシが口を開き、あやか姫はどうしたの?という顔でヒロシを見つめる。その瞬間、
「早く、帰れ! 終わったんだから、早く帰れっていってんだ!!」
と、ヒロシは、怒鳴った。
あやか姫はびっくりし、その母は怪訝な顔をし、困ったヒロシの母はひたすら恐縮して、美人親子を見送ったという。
「ヒロシっ!! まったくこの子は、なんてことを言うの。失礼でしょうっ」
ヒロシの母は、その場でヒロシを叱った。黙り込み、うつむくヒロシ。
「なんであんな事を言ったの!」
詰問する、ヒロシの母。
しばらく黙りこくっていたヒロシ、母が強権を発令して叱った途端、
「……ごぉめんなさいぃ」
と、ふてくされたように言う。
「ヒロシッ!!」
ヒロシの母がヒロシをもう一度叱り、問い詰めると、ヒロシ、受診前だというのにすでに目に涙をいっぱいためているではないか。
「だって……あやかちゃんに、僕の泣き声が聞こえちゃったら、イヤなんだ!! 先生が耳に棒いれると痛くて泣いちゃうから、それ……困るんだ!!」
今日三角公園で聞いた、ちょっといい話。(ノンフィクションノベル仕立て)。
頑張れ、少年!!
ヒロシ、次回は優しい口調で話しかけるんだぞ。
あやかちゃんはキミの泣き声を聞いたって
「痛そうね」って優しく言ってくれるさ。
がんばれヒロシと、ついでにサッカー小僧の福ちゃん!
あやかちゃんに捧げるゴールを決めろ!
いやあもう、おじさん楽しいよー。
そーか、そーか。
子どもはおもしろいですよねぇ、んふふふふふ。
Posted by: ゆう子 : 2006年07月13日 05:02| HOME |
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