深夜の訃報
深夜の電話は嫌いだ。
この歳になると「飲んでるから出て来ない?」と言う類いの電話ではなく、かなりシリアスなものが多いからだ。
特別に親しかったわけではないけれども、何度も一緒に飲んだことのある男性が亡くなったと、電話がきた。
大腸がんだった。子どもは、ない。
ほとんど同じぐらいの歳で、二十代後半の頃によく同じ飲み屋で一緒になって、私は特別好きでも嫌いでもなかった人だった。ただ、笑顔の爽やかな人だったのは覚えている。どちらかというと奔放な、はじけた感じの奥さんを、静かにサポートするタイプの殿方だった。
最後に会ったのは吉祥寺に住んでいた頃だ。まだ赤ちゃんだった娘を寝かして自転車で慌てて駆けつけたんだ。
「今、飲んでるから。ゆう子も来ない?」
突然始まったという吉祥寺時代の同窓会に、私の胸は踊っていた。はっきり、覚えている。
「もう青春も終わりだなあ」なんて話して、ビールを一杯だけ飲んでとんぼ返りしたぐらいだから、確実に6年以上も前の話だ。彼はその日も、とても爽やかな笑顔だった。
病気の事実すら知らず、この数年間に彼に何があったのか、想像もできないけれど。
そして 昔の仲間からの連絡がない限り多分あの時点から、きっと会うことはない人だったのだと思うけれど。
同じぐらいの歳の飲み友だちが亡くなるという事実に驚いているのか、旧友からの懐かしい電話が訃報だったという事実に耐えきれないのか、もう彼には二度と会えないんだなあという寂しさなのか。いや、残された人の痛みを思って、やりきれないんだ。
「乾杯」をしたね。
何度も何度も、意味もなく乾杯をした若い頃の飲み会。つまらないことでもめたり、つまらないことで大爆笑したり、あの日々を私と夫は「祭り」と呼んで、大切に記憶している。ほんの少しだけど、世界中が自分たちだけのためにあったように楽しかった日々。そのときのちょっと遠い仲間の、今日、冥福を祈るの?
「献杯」……そんなの、かなり、いやだ。
ご冥福を祈るよ。天国でも、きっと彼は爽やかな笑顔だと思う。また、そっちに行ったときに、ぱぁーっと飲み会ができるといいね。
天国に知り合いが増えていく。思い出を語りつつテニスしたり、飲み会したり。そうやって、死が少しずつ身近になって、少しずつ怖くなくなっていくのかもしれない。
2004年07月26日 23:15